toggle
2018-02-17

参議院の合区問題を考える(只野雅人 一橋大学)

論説:参議院の合区問題に関する、只野雅人さんの論説です。ぜひお読みください。

 


 

参議院の合区問題を考える

只野雅人(一橋大学)

最高裁判決と合区

 参議院議員選挙は、全国を1選挙区とする仕組み(比例区)と(96議席)、都道府県を選挙区とする仕組み(146議席)を組み合わせて、行われています。後者については、参議院が3年ごとに半数ずつ改選されることから、各都道府県に、人口を考慮して、偶数の議席が配分されてきました。都道府県を選挙区とする仕組みは、参議院の発足以来、ずっと維持されてきました。しかし、2015年7月、鳥取県・島根県、徳島県・高知県をそれぞれ一選挙区とする合区が、はじめて行われました。最高裁判所の判決を受けた措置です。

 参議院選挙区選挙(都道府県選挙区)をめぐっては、議員1人あたりが代表する人口(有権者数)の較差が問題となってきました。最高裁判所は、かつては、参議院の独自性を理由に、最大で5倍を超える較差(投票価値の不均衡)も憲法に違反しないと判断していました(1983年大法廷判決)。ようやく最大較差が6倍を超えたところで、憲法違反の状態が生じているとの判断が示されました(1996年大法廷判決)。

 その後、国会は小幅な定数の振り替えを繰り返し、最大較差は5倍前後で推移してきました。最高裁はそうした較差を次第に問題とするようになり、2012年大法廷判決は5倍ほどの最大較差が憲法違反の状態にあると判断するに至ります。さらに2012年大法廷判決は、不平等状態を解消するためには、選挙区の定数を振り替えるだけでは不十分であり、「現行の選挙制度の仕組み自体の見直し」が必要であると指摘しました。2014年にも同様の判決が出されたことから、国会は合区に踏み切りました。その結果、最大較差は3倍ほどに縮小しました。2017年の大法廷判決は、合区を含む投票価値の不均衡の是正措置について、合憲と判断しています。

 参議院議員定数242のうち、都道府県選挙区に割り当てられるのは146議席です。半数改選のため、1回あたりの改選議席数は73にすぎません。都道府県の間の人口の不均衡を考えると、この仕組みを維持する限り、投票価値の不平等を縮小することには限界があります。最高裁が、投票価値の平等の観点から、選挙制度自体の見直しを求めたことには十分な理由があります。しかし、衆議院だけでなく参議院にも投票価値の平等が強く求められると、「地方の声」が国政に反映されにくくなるという、根強い批判もあります。自民党は、各都道府県から最低1名の国会議員が選出されるよう、憲法改正案をとりまとめています。

 合区について、どう考えたらよいでしょう。

強い参議院と投票価値の平等

 日本国憲法では、衆議院と参議院の二院制がとられています。法律案の議決、予算の議決、条約の承認、首相の指名について、憲法では、参議院に対する衆議院の優越が認められています。また任期も、参議院の6年に対して、衆議院は4年と短く、しかも解散があります。こうしてみると、強い権限をもち、民意との距離が近い衆議院については投票価値の平等が強く求められるとしても、参議院については独自性を出すために、それとは違う観点から民意を代表すること―たとえば投票価値の平等の要請を緩和して各都道府県を選挙区とすること―も、許されるように思えます。最高裁判所もかつては、参議院の都道府県選挙区については「投票価値の平等の要請が一歩後退することもやむを得ない」と判断していました。

 しかし、2012年・2014年の大法廷判決は、参議院議員選挙だからといって投票価値の平等の要請が直ちに後退してよいわけではないと指摘しています。なぜ、参議院についても、投票価値の平等が強く求められるようになったのでしょうか。ポイントの1つは、参議院の権限の強さにあると思われます。

 1990年代以降の衆参の「ねじれ」を通じて、従来、衆議院よりも弱いとされてきた参議院の権限が、実は相当に強力だということが認識されるようになりました。法律案について、衆参の議決が食い違った場合、衆議院は3分の2の特別多数で再議決を行うことができます(憲法59条2項)。衆議院の優越のひとつとされてきた規定です。しかし実際には、ひとつの政党が単独で、衆議院の3分の2の議席を占めることは極めて困難です。重要な法律案が通らなければ、その影響が衆議院の優越が保障される予算に及んだり、内閣の存立がゆらいだりすることもあります。まさに、「ねじれ国会」のもとで生じたことがらです。2012年・2014年の大法廷判決も、日本国憲法の議院内閣制について、一定の事項については衆議院の優越を認め、機能的な国政の運営を図る一方で、「立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え」ていると述べています。

 参議院の権限が衆議院より劣っているなら、参議院の民主的基盤(たとえば投票価値の平等)をある程度は犠牲にしても、第二院としての独自性を追求することも許されるでしょう。より強い民主的基盤をもった衆議院の優越が保障されているからです。しかし、両院の権限が対等に近いとしたらどうでしょう。民主的基盤が弱い参議院が、強い民主的基盤をもつ衆議院の議決を阻止するようなことは、認めにくいのではないでしょうか。両院の権限が対等に近いなら、それぞれに同等の民主的な基盤が求められるのは、自然なことではないでしょうか。

投票価値の平等と地方の声

 では、投票価値の平等ばかり追求すると、人口の少ない地域の声が国政に反映されにくくなるという批判については、どう考えたらよいでしょう。東京への一極集中や地方の衰退が問題となるなか、そうした批判も、もっともであるように思えます。「地方の声」を反映するための単位とされるのが、参議院の都道府県選挙区です。都道府県は地方公共団体であり、行政の単位です。知事や県議会の選挙も行われています。都道府県という単位で「地方の声」の代表を考えることにも、相応の理由がありそうです。

 しかし、よく考えてみましょう。都道府県という単位も、決して一枚岩ではありません。そのなかでは、様々な人々のつながりや利益が、複雑に絡み合っているはずです。それらが、都道府県の枠を超えて、拡がっている場合もあるでしょう。また、過疎と過密の問題は、大都市と地方の間だけでなく、同じ県の中にも存在しています。都道府県を単位として「地方の声」とひとくくりにされるものは、実は様々な、国政に届きにくい「声」の束なのではないでしょうか。1回の選挙で1名だけの議員を選挙することで、そのすべてを反映することは難しいでしょう。

現在、45選挙区のうち32選挙区は、1回の改選議席が1名のみとなっています。衆議院の小選挙区と同様の状態であり、多数党が議席を独占することも可能です。都道府県よりも広い区域を選挙区として-都道府県とは別の尺度を通じて、一つの選挙区からより多くの議員を選挙することで、国政に届きにくい様々な「声」の反映を考えてみることなども、十分、検討に値するのではないでしょうか。

 参議院議員は、衆議院議員とともに、全国民を代表する役割を担っている(憲法43条)ことにも目を向ける必要があります。参議院議員が国会で扱う問題は、「地方」の問題には限られません。たとえば安全保障や外交のような、地方とは直接関わらない重要課題も、国会では数多く議論されます。参議院議員を、「地方の代表」「都道府県の代表」とだけみなすことには、無理があります。「地方の声」をどう受け止めるかは、全国的な視点からしっかり考えるべき課題ではないでしょうか。

 現在自民党は、参議院の都道府県選挙区を維持するために、憲法改正案をとりまとめています。しかし、憲法改正にまで踏み込むのであれば、参議院の権限や役割をどうするかを真剣に考える必要があります。また、都道府県を代表の単位とするのであれば、都道府県にどの様な地位を与えるのかについても、しっかり議論しなければなりません。参議院の権限を縮小するべきなのか。都道府県に連邦国家の州のような強い権限を与えるべきなのか。問題の背景にはこうした、いずれも簡単に答えを出すことのできない大きなテーマが控えています。合区解消だけを目的とした憲法改正議論には、大きな問題があります。

 衆参両院が共に、投票価値の平等を基礎に選挙されたとしても、参議院の独自性がなくなるわけではありません。投票価値の平等を前提としても、選挙制度については様々な選択肢があります。たとえば衆議院は政党中心の選挙制度とする一方、参議院は「人物」の選択に重点をおいた選挙制度とすることなども、考えられるでしょう。また、衆参の任期は異なりますから、それぞれが違った時点の民意を反映することになります。それぞれが違ったタイム・スパンで民意を反映し、また活動することで、両院それぞれの独自性を発揮することも可能なはずです。

タグ:
関連記事